『もしニーチェが短歌を詠んだら』/中島祐介  について

もしニーチェが短歌を詠んだら

もしニーチェが短歌を詠んだら


amazonで購入した。便利なのはわかっているが、ネットで本を買うのは
 好きではない。買いに行く、買って喫茶店や帰りの電車の中で開く、等が
 好きだから。この本も段ボールから開いて、思わずツイッター
 装幀の件で少しネガティブなことを書いてしまった。
 日本語では、相手を非難する言葉ほど、短い、という。
 「バカ」「アホ」「死ね」など。
 だから子供は先にそういった言葉を、かなり覚えてしまう、という説もある。
 気をつけねば、と思う。




角川学芸出版だから、選書っぽいデザインの「角川学芸ブックス」で出てるのか
 と思ったら、そうではなかった。印刷製本も、前者は文昌堂でこの本は
 シナノ。手軽な感じがいいと思う。




◇著者の中島さんとは、十年前くらいに会ったきりで、今あっても気付けないかも。
 第一歌集は未読で、昨日ネットで書影だけを見た。




◇いわゆる「もしドラ」の、アレンジ本だというのは、ついこないだまで気づか
 なかった。




◇読み始めは、こういう「短歌での『超訳』みたいなもの」
 は実際にある程度現在の短歌を読んで来ている人とそうでない人ではかなり違うから、
 読んで来ている中島さんが書くのはいいことだなあ、と思った。
 途中からは、口語にすれば句またがりにしなくてもいいところを、
 かなりテクニカルに処理して31音にまとめているところが目立って、
 いいことばっかりでもないかもなあ、と少し苦笑した。
 私はニーチェを熟読したことはないのだが、
 「理に落ちる」という形で一首を構成していこうとすると、
 こんなに枡野浩一の歌と似てしまうものなのかと驚いた。
 もうひとつは、初句五音の内的な強制感の弱さの「露出」である。
 『月林船団ーアララギ新風七人の100首』と題された合同歌集を読んだことがある。
 そのとき、初句が六音以上になっている歌も散見されるにもかかわらず、
 七人の作者のすべてから初句五音の内的な強制感がとても強力に感じられるのに
 かなり私は驚いた。
 今でもある程度の年齢か、歌作期間が長期に渡る歌人は、「歌風」というのに
 かなり敏感だと私は思っている。『月林船団』のそれはまぎれもなく、「歌風」だろう。
 それはそれとして、初句五音の内的な強制感の減衰は、それをうまく全体の構成のなかで
 等量に振り分けていく(あるいは回収する)ようにしないと、歌自体の緊張感が衰える。
 短歌作品として読まれるのは不本意かも知れないが、
 思ったことだから、書き付けておく。
 



◇私は、これは「ビジネス書」として作られていると思う。
 ビジネス書の定義のようなものを、どこかで吉本隆明が書いていた。
 「ビジネスマンが読むのがビジネス書で、私の(吉本の)本は50%以上が
  ビジネスマンが読んでいるから、これ(吉本の本)はビジネス書だ」
 といった内容だったと思う。今少しさがしたが、書いてある本が見つけられなかった。
 竹村健一が訳した(となっている。本当かどうかなど私に知る方法はない)
 ジョン・ネイスビッツの『メガトレンド』という本がある。
 ひどい文章だった。
 おれはこんな文章を読むんだったら、絶対ビジネスマンになんかならない、と
 ある友人にいったら、
 心配しなくてもあなたは死んでもビジネスマンになんかなれないよ、と
 言われた。
 事実なってないから、それは当たっている。
 それはそれとして、それでも中島さんのこの本の「はじめに」の文や、
 邦訳・図書リストの文章の雰囲気には、含羞やデリカシーがあって好ましい。
 ただの気遣いには思えない。
 歌人の紹介リストで、茂吉と白秋の間に夕暮を置くのは、
 三枝昂之の『昭和短歌の精神史』から来ているのかな、
 とも思うが、そうであってもなくても、いいと思う。
 女性の歌人の名前の少なさは、この本の読者層を思ってか、
 短歌に基本的にかかるバイアスのせいなのかは、
 (岩波短歌辞典の編集委員の男女比率は、バイアスだと私は思う)
 よくわからない。



◇短歌=翻訳を三首ほど引く。


*炎火なる沿道に逃げ水があり 神とはひとつの憶測である
(単純に、歌としていいと思う)


*才能は一つ少ないときよりも一つ多いほうが危険だ
(いい感じの箴言性が出ている。ジャンプに連載中の西尾維新原作の
マンガに出てきてもおかしくないと思う)


*指先を通じてからだに響いてく はじめて鳴ったFのコードが
(原文がわからないので、ニーチェの書にFコードというのが
出てくるのかわからない。上の句には、中島さんの「からだ」が
出ているように感じるが、思いすごしかもしれない)


◇さて、この本、すでに重版しているのかと思ったら、まだで、「重版祈念」の
下記のイベントがある。


★短歌をカネにかえたくて★
―『もしニーチェが短歌を詠んだら』重版祈念トークライブ―

2012年10月13日(土) ロフトプラスワン



http://www.loft-prj.co.jp/lofta/schedule/perD.cgi?form=2&year=2012&mon=10&day=13



 商品だから、(というのを私は「定価」がついているものとしてここでは使う。
非売品もあるし頌価をつけてあるものもあるが、単純にそこで私はわけて使う。
というのは強制ではなく、私はそういう風に使うよ、という説明です。)
本は売れないより売れたほうがいいと思う。
 いろんな話が出ればいい。私はいけないけれども。
 この本を買ったのは、佐々木さんとはまったく、中島さんともほとんど私は親しくないのだが、
このイベントのサムヘルプが出来ればいいかな、と思ったからである。
 よい会になればいいなと思っています。



             正岡