ネットは見ているあなたが離れるそのときを

◇買った本とか


*『2ちゃんねる宣言』 井上トシユキ+神宮前org 文藝春秋
*『弟』 石原慎太郎 幻冬舎
*『思想とは何か』 吉本隆明・笠原芳光 春秋社
*「もより #04」 フォックス出版 2006/08
*「もより #05」 フォックス出版 2006/10
*「ピスケン」 脚本 マキノノゾミ 劇団M・O・P


 『2ちゃんねる宣言』は2001年12月刊と、この手の本に関しては古いものだが、
 私はそれなりにおもしろかった。
 ひとつは、2ちゃんねるの「削除人」のありかたと運用のなされかたを書いた
 ところと、もうひとつは、匿名での議論−コミュニケーションの難しさを書いたところ。
 匿名であれ、記名であれ、コミュニケーションのあるところには、そのコミュニケーション
 の「内部」というものがあるわけで、自ずから内部というのは、自然課程として、
 濃密になる。ただ、その濃密さをほんとうに感受できるのは、そのやりとりの
 当事者であって、外部の傍観者ではない。
 また匿名でもなんでも、発言・発信されたことの「確からしさ」は、
 コミュニケーションの場に放り出されたとき、「根拠は?」「出典は?」と
 問われることになる。
 そうやって、「確からしさ−情報や主張そのものの価値」は淘汰されるが、
 はたから見ているととても淘汰−短歌・俳句で言えば「選」−されているとは
 見えない場合が多い。
 それは、傍観者がその現時点に立ち会ってしまうことによる、
 視点の近接性によると思う。
 それでも、「発言そのもの」があるコミュニケートの内部を前提としないで、
 その価値を自ずから自明とするような場合がたまにある。
 あるブログのコメント欄に、「m」という匿名で書かれた、たとえば次のような部分。


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 短歌という世界にある自浄作用についてはわかりませんが、
 短歌を書くことには自浄作用があると思いますよ。


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 前後を切り離すことを「切り文」と言う場合があって、主にわざと曲解するときに
 使うのだが、私にはこの一文がひどく心に残ったので、あえてここだけ
 引用させていただく。
 私も「短歌という世界」にある自浄作用についてはあまりわからない。
 短歌・俳句というのは「くらべながら作る」ヒステリックで神経症的な詩形だ、
 とはいつか日記のどこかで書いたことで、そういう見方はネガティブではあっても
 一面は正しいはずだと思う。
 とはいえ、ポジティブな部分、あるいはポジティブな内実からの光線のようなものの、
 そのありかたを、手渡すように伝えることも難しいことだとも思う。
 この「m」さんの発言は、ブログ記事のコメントへのコメントとしてなされたもので、
 一義的にはその、レスした相手に伝われば、あるいはそのレスの相手が、読めばいいのだとは思う。
 ただ、私は匿名でこうしたコメントを書くことは、契機と、それととても「技術」が
 いることだと思う。
 こうしたコメントが書かれることが、大辻隆弘さんが言う「ネット短歌の終焉」という時代なのであれば、
 私はその時代を素直に歓迎する。


石原慎太郎の本はとりあえず読んでみたかったので。
 石原慎太郎の小説は本当は面白いんだよ、といった微妙な再評価っぽい言葉は最近時々
 見かけるような気がする。
 近年の文芸誌に載ってる石原の小説の文体は私は結構好きな方である。
 吉本・笠原対談は2006年10月刊で、そう新しくもないのだが、
 第二章の「詩歌の思想」をめくっているとついふらふらと買ってしまった。
 「古池や蛙飛び込む水の音」の句について、ロラン・バルトの解釈を笠原さんが言ったあと、


 吉本/いやそれはよくそんなことまで解釈したもんだなと感心もするけど、
    屁理屈だと思います。だってこれはちっともいい句じゃないよ(笑)。


 とか言ってます。うーん。
 「もより」というのは、「情報基地アキバより届けキミに、この電波!?」というキャプションが
 表紙に書いてあるような、それっぽい大判のムックで、初めてみたもので買ってみました。
 エロ漫画でもエロゲームでもいいですが、そういうものの中で描かれる「女性」というものは、
 一種の「指人形性」を帯びているのではないか、というのが最近の考え。
 誰かもう言ってるか。
 欲望を発するほうの男性が、内側から操作しているように見えるときに、結構そういう趣味の
 人に受けるのでは。
 昔の演劇関係のビデオは安いとときたま買ってしまいます。マキノさんのは1992年作品。


◇読んだ本


*『山毛欅林と創造』  安井浩司  沖積舎



 頂いていたのですがようやくいまごろ読みました。
 いいな、と思った句をいくつか。




 亀を貫く光線もまた初夏の庭


 樫に吊られて假面ずれたる冬男


 向こうより形なきトンボ来たる浜


 心字池ほとりに花蜂酔死して


 花の湖(うみ)男人魚でいいんだよ


 遠近にみな抱き合うて燃える野火


 夷(えびす)草ガラスのかまきり垂れおらん


 一人右に多くは左に斃るつゆくさ


 首の袋に銅銭入れると歩む夏牛


 娶らんや花じゅんさいの異郷より



 最初の句がいいですな。ガメラっぽくって。