万太郎と井戸端会議の冒険

◇買った本

*『歌の海』 菱川善夫 不識書院
*『処女句集と現在』 「沖」俳句会  邑書林
*『'82現代短歌シンポジウムin東京』 雁書館
*『火冠』 塘健 書肆季節社
*「俳壇」1989/3月号
*「俳壇」1989/8月号
*「俳句四季」1999/9月号
*「少年ジャンプ」 47号


◇夜勤明け。
 実家によったあとに先日書いた伊勢の観光キャンペーンを見に、
 奈良のもちいどの(漢字で書くと餅飯殿)まで行ってみる。
 無料で振る舞いの伊勢エビ汁、というのはまだ調理中というので、
 鮪のてこね鮨だけもらったら横からサザエの壺焼きも
 さしだされて、貝はそんなに好きでもないので困る。
 キャンペーンは伊勢の絵かきの町・大王町というところのもので、
 ああそういえばテレビで一度見たことがある、学校の美術部とかが
 絵を描きに合宿とかよくしにいく町である。
 調理に時間がかかりそうなので、近所の古本屋をのぞく。
 あまりいったことのない「智林堂書店」というところ。
 はいって左の下の方の棚に歌書や俳書が。
 掘り出し物というほどではないが、上記の本を購入。
 菱川のは北海道新聞の折々の歌風の短歌一首鑑賞コラム集で、
 刊行は1985年。
 ざっと選歌を見るけれど、有名な歌が多いのと、やはり時代がちょっと
 移っているのでさほどあざやかさはないかな。


 ◎地獄まで引き込むごとく黒蟻のありし彼(か)の日に逢ひて既(はや)亡し
                 滝沢 亘


 ◎君に問えどその名知らざる惑星を小窓に置きてわが誕生日
                 糸川雅子


 ◎まぼろしのうちなる春夜燦(かがや)かにひとはきたりて声をのこせり
                 雨宮雅子



 こんな感じ。糸川や雨宮の歌の選び方に、「女歌の時代」の少し前の時期の
 女性短歌の傾向が見えることだろう。
 「沖」俳句会の本は、平成3年の8月号から同誌に連載された、沖同人による
 第一句集をとりあげた俳論を平成7年にまとめたもので、
 第一回から、波多野爽波、上田五千石、飯島晴子、後藤比奈夫、鷹羽狩行、鈴木六林男
 とそれなりに視野は狭くはなくて、寺田澄史とかまで入れるほど広くはない。
 執筆者で私が名前を知っているのは、正木ゆう子と大島雄作。小澤克巳くらいである。
 結社誌連載のゆえか登四郎門下ということか、論は少しおおらかな感じの文が並んで
 いるようだが、もう少し目を通さないとそりゃ失礼になるかもね。


 仲秋の金蠅にしてパッと散る     波多野爽波


 白き蛾のゐる一隅へときどきゆく   飯島晴子


 秋空に斑鳩の路地すぐ終る      有馬郎人


 蝉取る子貝殻骨に秋は来ぬ      川崎展宏


 本自体の雰囲気が伝わるようにそれぞれの論で引用されてる句を選んでみたつもり。
 塘健は、第一歌集。
 1983年刊で、当時読んで見たかったけど買いそびれてしまったもの。
 硫酸紙がかかったままだったので古本としては綺麗だが、
 結構あっさりした装丁でちょっとだけ意外。
 これからしばらく後の時代の、小紋潤装丁の雁書館の歌集の華麗さと比べて
 しまうからだろうか。
 記憶にある、


 ◎行かばブエノスアイレスの西秋冷(しうれい)は我が鬣(たてがみ)に及びつつあり


 ◎黒砂糖の苦きおもひはたちまちに薩州藩士西郷隆盛
           (これが歌集の掉尾の歌)


 などは、塚本調というよりどこかに危うい一回性をただよわせていて、
 このころはこのころなりに難しかった「歌い続けるということ」への哀惜をおぼえる。
 (というか今検索したら、なんか下記の頁で歌集の全歌がアップされていた。)
  ↓
http://www13.ocn.ne.jp/~chs/kakan.htm


◇『'82年現代短歌−』は1982年11月13日*14日のシンポの記録。
 SF大会ならプログレス・レポートなんていうんだけどこの手の世界では
 なぜか全記録とかいいます。
 いやいやさすがにこんなの行ってませんよ。
 吉本隆明の講演のあとで質問しているのは三枝浩樹、永田和宏、滝耕作(!)。
 進行はしばらく前の朝日新聞の夕刊で「LEON」や「Pen」に
 出てきても少しもおかしくないスマート爺さんの笑顔をこれでもかと
 いわんばかりに披露していた藤森益弘である。
 二日目の第二部のパネルの「ただよう家族」というタイトルが、
 がそののち割と語られたようには思えます。
 どうでもいいですけどこの本の帯のこのころの岡井隆の顔写真は、
 亀田興毅の次の対戦相手って感じの写り方&トリミングの仕方。
 「俳壇」の3月号は山口青邨の追悼の黒田杏子選の青邨百句がおめあて。
 おなじく8月号は「現代俳句のニューウエーブ31」という新人特集がおめあて。
 このニューウエーブは単に当時の若手というだけのことです。
 「俳句四季」は特集:堀井春一郎がおめあて。
 でも特集といっても10頁。
 ちなみに1999年7月号は特集:中谷寛章だ!(本当)
 「ジャンプ」は今週も載ってた「HUNTER&HUNTERE」。
 上から降ってきたのがキルアのじーさんとはおもわなんだ。
 10週間分原稿出来てるんなら、10週分載せてくれればいいのに。
 だめか、そんなの。


◇その智林堂で古書目録がおいてあったので、見ると短冊が掲載されてる。
 青畝とか素十がだーとあって、京極杞陽のが一枚だけ書いてある。
 「八幡宮綺麗できれいで雪が降る」という杞陽ばりの脱力な一句で、
 見せてもらえませんか、といったら、はいはいといってさがしてくれたが
 売れましたね、とのこと。杞陽が一万円で売れるのかー。
 それはそれで脱力。
 その目録を入れておきますねともらったが、
 よく見てみると頒価が100円と書いてある。
 なかなかやるな!
 ちなみに営業時間は11時〜18時30分頃。
 「頃」というのは人通り少なくなったらお店しめちゃうんでしょうね。


◇結局伊勢エビ汁は気が抜けたので食べにいかず。
 こんなことしてる場合じゃないんだろうけどなー。