北風と太陽風交点


◇読んだ本


限界の思考 空虚な時代を生き抜くための社会学

限界の思考 空虚な時代を生き抜くための社会学



 んー。これはおもしろかった。
 この間、家父長制だとかフェミニストだとかいう言葉を入れ替えた
 俳句を日記に書いたら、ほんとにフェミニズムをまじめに研究してる人の
 blogから、こちらのページへ来た人があった模様。
 たぶんなんじゃこりゃと思って、すぐに閉じられたとは思うのだが、
 その研究者のblogを逆にたどると、この本の出版社の「双風舎」のblogへの
 リンクがあって、そこから宮台真司のblogにまたリンクがあって、
 何かとりつかれたように一晩かかって、一年半分ほどさかのぼってそれを
 読んでしまった。
 それでもってアマゾンにこの本を注文して、今日ざあっと読了。
 「新現実」に大塚英志宮台真司の対談が掲載されていて、その冒頭に
 いま宮台さんはいろんな場面で影響力の強い人の一人だ、
 とか大塚さんがいってたように思うんですが、個人的には人といままで
 宮台真司の話をしたことは一度もなかったので、それはなんだか
 よくわからなかったですね。
 それがblog読んで、この本読んで少しはわかったような。
 それはだから1962年生まれの私が、あさのあつこの「バッテリー」を読んで、
 「理論社の大長編シリーズ」を思い出さずにいられないように、
 (『日付のないラブレターズ』とかね)
 吉本だの柄谷だのを読んでいた自分を少し思い出すからで、
 語られる膨大な情報と、社会分析のミニマルな的確さ、言葉の端々にあらわれる
 熱情と(私から見た感じでの)古典的な含羞を含んだ質の高い人間性と、
 その誤解されやすそうなふるまいかた、は一級のものだなあ、と思います。
 ほかの本は読んでないですが、こういう人の言説はやはり、
 ある程度の分量を一度に読まないと、わからないんじゃないんですかね。
 そういう意味では、北田暁大という自ら「宮台チルドレン」と言う
 若い社会学者に向けて、宮台真司が自己を語るというこの本はいいものかも。
 上野千鶴子の本を二、三冊読んだことはありますが、
 一番印象的なのは、何かの本の森崎和恵との対談で、
 その最初の方で、「それが、今日でございます(笑)」というような言葉で、
 森崎さんと自分−上野−との関係の歴史を少ししゃべってみせたところで、
 この対談でもいろいろ語ってるけど、廣松渉に自分の五百枚ほどの論を
 読んでもらったところとかは同じように印象的です。
 ていうか、どこかに「師弟論」みたいなのがないと、なかなか長続きする
 人格的な活動というのはこの文明の中ではしにくいんだよね。
 あと断片的に読んでいてはわかりにくい、歴史的業績への宮台真司の評価−
 大森荘蔵はケタ外れに偉大だったとか、蓮実重彦への信頼とか−がわりとまとめて
 読めるのは、さほど現在の学究的な世界に遠くなった私とかには
 構図みたいに見えてよいですね。
 ただ社会学と「宗教」というのは相容れないものなんだろうなあ、というのと、
 (これが日本においては、となるのかどうかはわかりませんが)
 社会学と詩歌というのもこれからはかなり階層の違う経路をたどって
 いくんだろうなあというのは切実には思いますね。
 かなりたくさんの書物や人名が出てきますが、
 私は結構読み飛ばして読んでいきました。
 んー。いやいろいろあるんだけどやっぱり俳人の安井浩司の中期のえらさって
 いうのは私の中ではあんまりゆるがないのですよ。
 それを「バカ」とか「ドグマ」といわれたらああそうですか、
 としか言えないんですが。
 それはヒューマニズム人間主義の越え方、または退け方の差なんだろうなと
 思いますね。
 あと篠弘が角川短歌の連載研究の座談会で
 「(昔は)思想と言えば(即ち)マルクス主義思想だった」とかいっていて、
 これは実感の伴った言葉だなあとつくづく思ったことがあります。
 浅田彰は『構造と力』にはいってる柄谷行人とかとの座談会で、
 置塩、森嶋、スティードマン、ローマーくらいはマルクス語るなら
 読んでおかないといけないねみたいなことを今のラッパーみたいに
 くっちゃべっておられましたが、やっぱりこの本でも森嶋、ローマーみたいな
 名前は出てくるので(私は読んでませんぜそんなひとらの本)
 なんかそんなもんなんだろうなあとは思いますね。
 あと、その宮台blogで、「質の高い読者のマーケット」という言葉が出てきましたが、
 そうだよなーやっぱりグループよりマーケットだよなーとか
 感じました。
 日本の「詩」「短歌」ほかのジャンルは、グループとマーケットが
 逆転してるんじゃないですかね。


◇あと買った本


*『ヤオハン 無邪気な失敗』 加藤鉱
*『日本の国家予算』 吉田和男


 「現代中国詩集」を読んでたら思い出したようにこんな本を買ってしまった。
 どちらも十年前ほどの本。
 中国ねえ。でもヤオハン話はおもしろかったっす。